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#06 風が



 台風4号が接近している。
 明日の昼までに九州北部は100ミリの雨とのこと。災害が出ては元も子もないが、恵みの雨になればいいのだけれど。

 と同時に風が強くなってきている。
 窓の外でヒューヒューと鳴いている。
 夜に風が鳴く音を聞くといつも以前住んでいた金沢を思い出す。住んでいた、と言っても小学1年生の一年間だけだが。
 関東から引っ越して来た6才の、たった一年間で印象に残っているのが風の音と雪の白さ、それに地域の秋祭りというのがいかにも子供らしい情けなさ。
 あの寂しそうに、そして姿無き姿を見に来いと誘う悲し気な風の鳴き声。
 「やめなさい」と止める母の声を振り切って開けた窓からは、遠く闇に姿を溶かしつつある木々がさっきまでそこにいた声の主をかくまっているかのように枝葉を揺らしている。
 
 音、匂い、光。
 年端のいかない時ほど五感の記憶はいつまでも脳裏に格納されている。それらがフラッシュバックする時はえてして何かしら迷っている時、立ち位置が分からなくなった時。
 たまには、ゆらりとわき上がるフラッシュバックと戯れながら、もう僕ではなく娘を誘おうとしている風を肴に酒でも飲もうか。


(2003年5月30日)



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