#10 伝える
金曜日、東京本社から偉い方がお見えになった。大体こういうパターンの時、夜の食事を御一緒させて頂くのだが、僕は夕方にお得意の集金があり、後で合流という事になった。
そして向かったのだが、初めて行く店だったので、先に行っている上司に携帯で店の場所を聞きながら店へと向かう。
「○○橋の近くにローソンがあるからそこ曲がって」
「はい」
この時点で僕は少しおかしいと思った。そこを曲がるといわゆる風俗街である。「本番」バリバリのブロックである。こんな所に食事するような場所はあったっけ?しかし初めての店と言う事もあり、通り過ぎるのだけかもしれないと思い、数限りない黒服の呼び込みの声を振り払ってそのブロックを通過した。しかし結局店はなかった。
同じ店を上司と僕で頭に思い浮かべながら、行き着かなかったのは、指示された橋の端と端で、ローソンが二軒あったからだ。
伝える難しさ、伝えるられる難しさ。
そしてタイトルの「伝える」についてもうひとつ。
黒服軍団の呼び込みは実に的を得ていて面白い。
「30分1万円オンリー、如何っすか」
「ピチピチ以上の若い子多数、若いお兄さん(僕の事である)如何っすか」
「よりどりみどり大多数、きっといますよお気に入り」
最後の台詞は完全に七五調でリズムが抜群だ。
その時通りを歩いていたのは僕独り。店の前にずらりと並んだ彼等は僕に向かって言葉を発しているのにまるで僕に言うのではなく独り言を言うように言っている。立ちふさがったり手を引いたりという行為が客引きとして禁じられているからだ。僕をちらりと上目で見ながら何とはなしに地面を見ながら目前を通り過ぎる僕に言葉を発する。
そして一番印象に残っているのは、
「175cm以上の子沢山いますよ」と言う台詞だった。
店の前に2人居て、若い方が「どうすか、お兄さん」と普通に言ったのに対し少し年配の方が「175cm〜」と言った。背が高い女性が今好まれていてその店のウリなのかもしれない。ただ、その年配は一瞬僕を上から下まで見てから言ったので多分僕に合わせたのではないかと僕は思っている。
相手を一瞬で見抜き、的確な情報を伝える。
勘違いかもしれないけれど、僕はプロの仕事を垣間見たような気がした。
(2003年7月5日)
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