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#13 無能と思う瞬間


 営業職であるだけに、何が嬉しいかと言えばクライアントの喜ぶ顔である。
 喜ぶ顔に至るプロセスは2つある。
 一つはクライアントが「こうしたい」という希望を出し、クライアントの思う通りに宣伝活動がうまくいった時。
 そしてもう一つはこちらが「こうしたら」という提案を出し、うまくハマった時。

 前者のパターンで大事な事は、あくまでクライアント主体であるため、修正する道を密かに作っておくことだ。クライアントが希望を出したからと言ってすべてがうまくいく訳ではない。本道を外れそうになった時に、よりダメージの少ない道に案内するのも営業の役目だと思う。言い換えればリスクマネージメントである。沈みゆく船でじっとしているよりは助かる方法をあらかじめ頭に叩き込んでおき、いざとなったらそれを実践する。
 リスキーな問題(それは時間的なものだったり予算的なものだったりするのだが)を抱えそうな場合は特にそうである。

 後者の場合はこちら主導で提案するために、あらかじめその第2、第3の選択肢を表に出しておくことも可能だが、あまりに選択肢が多いとピントがぼけてしまうし、何より自分の提案に自信を持てていないように映るのが玉に瑕である。しかしクライアントのOKを貰い、最初の提案を決行したにもかかわらず、目指すゴールが徐々に低くなっていくのも辛いものがある。まるで「僕は無能です」と言わんばかりのいたたまれなさ。

 でもそれ以上に「僕は無能なのかなあ」と思う時がある。
 どうしようもない事を無理を承知で頼まれた時、散々動き回って、しかし結局どうしようもなく、その報告をする瞬間。
 確かにクライアントは「無理を承知」や「出来ればの話」と言ったのだけれど、その奥には「どうしても」という願望がギラギラと渦巻いているのが分かるだけに、期待に応えられない自分がもどかしくて、そして情けなくなるのだ。
 どうしようもない事がひっくり返る確率は10回に1回もないのだけれど、「元々無理だったのだから」と言い訳にはしたくない。
 もしかしたらひっくり返るかもしれない糸口を見つけてストックしておかなければ。
 少しでもクライアントからの信頼度を上げるために。

 そして、少しでも無能な自分から抜け出せるように。


(2003年9月5日)



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