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#19 WEB3ページで10万円也
言葉は丁寧なのだけれど、「出してやってるんだぞ」という態度がミエミエな声の調子。年の頃は僕とそう変わらないぐらいか。
パーテーション1枚で仕切られたある代理店の打ち合わせスペース。僕は担当を待つ間に先に始まった背後の打ち合わせの声を何とはなしに聞いていた。
「トップ、フラッシュにするとどのくらい?」
「うーん、カッチリ作ると20・30万ってところですか」
「あー、そんなカッチリ全然要らないのよ。何しろ素材が全然無いからさ」
「そうですか」
「トップだけフラッシュでチャッチャッと作ってもらってさ、あとはこっちのデータ載せてもらえばいいの」
「はあ」
「そうねトップでしょ、あと2ページで計3ページってトコかな」
「はあ」
聞いた感じはその代理店の営業と呼び出されたWEB制作会社の担当という感じだろう。しかし制作会社の方は声の張りが全く無い。「イヤイヤ」とまではいかないまでも「ノリノリ」で打ち合わせを行っている風ではなさそうだ。
とにかく営業は「素材がない」を連発していた。
ラチがあかないと思ったのか、制作会社は「大体どのくらいでお考えですか?」と訊ねた。
「ざっくりでいい?」
「ええ」
「そうねー、ざっくり10かな」
「はあ」
「ざっくり10弱ね」
営業は「弱」という単語にやたら力を込めて繰り返した。
しばし訪れる沈黙。
制作会社はしばらくして切り口を変えた。
「ドメイン、どうします?」
人ごとながら僕はそうだよねと心で呟いた。独自ドメイン取るとなるとそんな価格で出来るのだろうか。しかし営業はあっさりと言い放つ。
「ドメイン?要らない要らない」
少し驚いた感じで制作会社が聞き返す。
「どちらにアップロード.......」
しかしみなまで言わせず営業は相手の言葉を遮った。
「今さ、客のドメインあるのよ、別の制作会社が作ったやつが」
「はあ」
「その中のコンテンツのひとつってコトで」
「はい」
ガタンと椅子が動く音。
「じゃあ見積よろしく。"なるはや"でね。4時過ぎには欲しいな」
なるべく早く、略してなるはや。時刻は3時半少し前。笑っちゃうほどの"なるべく"だ。
言うだけ言って営業は打ち合わせブースを離れて社内に消えた。
残された制作会社も立ち上がったようだ。パタンとノートか何かを閉じる音。
そして「....はあ」と僕にも聞こえる溜め息。
大方今あるドメインを任せた制作会社ではコンテンツ一つ作るのでは価格が合わなかったのだろう。もしくは3ページのコンテンツ一つ追加というのを断られたか。それで普段付き合いの余り無い別の制作会社を恩着せがましく呼びつけて吹っかけたと言うところだろう。
まあ営業にはある種の駆け引きは必要だ。対クライアント、対スタッフどちらにせよ、人間自分の希望を通したい。駆け引きをしながら落とし所を探っていくものだ。
しかし駆け引きと言うのは例えば納期にせよ料金にせよある種の信頼が無ければ出来ないものだ。信頼があればこそ「しょうがないなあ、じゃあ今回はそれで」とオチを付けて終了となる。その際にどちらかにわだかまりがあれば気持ち良く仕事は出来はしない。
少なくとも僕はそう思っているし、できるだけそうありたいと行動している。
しかしこの御時世にそんな甘言は通用しないのだろうか。
考え方を変えればこの仕事をきっかけにして食い込めばいいのかもしれない。もし僕があの制作会社の立場だったらそういう風に気持ちを切り替えているだろうか。いや、あんな営業とは仕事はしたくない。しかし子供ではないのだからしない訳にはいかない。今回限りと「ヘェヘェ」と受けてしまうだろう。けれどそれきりにする。
別会社が制作管理しているページにウチがコンテンツ追加しても責任持てませんよ、と何故あの制作会社は言わなかったのだろう。もしかしたらこの仕事の後には大きなアメが見え隠れしているのかも?
僕には全く関係のない2人の会話を通して自分ならどうだろうと考える。
3ページ10万円の仕事がしばらく僕の頭から離れなかった。
(2004年6月19日)
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